「このカボチャの煮物、美味しいね。」
ほっくりとした食感で、ほどよい醤油加減と優しい甘味。
自分では作れない味の煮物だ。こういった優しい味付けは、僕より妻の方が断然うまい。
「あら、そう、良かった。簡単だからまた作るわ。」
後日、夕食が終わって食器を洗っていると(食洗機欲しいなぁ)、妻も台所に。
「明日のお弁当のおかずが何にも無いし、カボチャでも煮るわ。」
4分の1にカットされたカボチャの種をくり抜いたら、包丁でカボチャを一口サイズに。
カボチャの皮は硬い。
サクッ、ミシミシミシ、ゴン。
サクッ、ミシミシミシ、ゴゴゴン。
包丁がまな板に叩きつけられる音が、ゴンゴンと台所で豪快に響く。
「僕が変わろうか?」
「大丈夫、慣れてるし。そんなに量も無いから。」
包丁を握る妻の前腕が硬くなってカツオ節みたいになっている。
そういえばこの前、拳をギュッと握ってカツオ節みたいなキレキレカクカクの腕橈骨筋を見せてくれてドヤ顔していた。(腕橈骨筋のカットを自慢してくる女性は稀少なのでリアクションに困る。)
寸断されたカボチャをガバガバッと小鍋に放り込む。
ミリンを鍋に一回りくらい?、醤油も一回りくらい?、あとは砂糖やら何やら目分量?でドバドバッと。
「煮立ったら弱火にして、あとは落とし蓋をして放っておくから、あなたが食器を洗い終わったら水加減をみてみてね。」
ここまで5分もかからないくらいの時間。
あんなにほっくり優しい味のカボチャの煮物が、こんなにダイナミックな工程で作られていたことに衝撃を受ける。割烹着を着た女将が丁寧にコトコト煮込んでいるような、そんなカボチャの煮物のイメージが崩壊した。
優しいのは妻ではなくて、カボチャだった。
まあ美味しいから過程は気にしないでいいか。